古くからある哲学はなぜ新しく語られるのか?
それには、視点の変化があります。
人間には本質がなく相対的という構造主義や、構築主義が主流になっていた哲学。
それを乗り越えようとする21世紀の哲学において、人新世(じんしんせい、ひとしんせい)はキーワードになります。
人新世とは
人新世は、人間が地球に及ぼす影響が、地球の運命を握るという発想からうまれました。(哲学用語事典 参照)
ノーベル賞化学者のパウル・ヨーゼフ・クルッツェン(1933~)が2000年に提案したと言われています。
人新世と完新世を対比させることで見ていきます。
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人新世=人が地球に影響を与える
完新世では、人は地球に何をしても変わらないように感じられてきました。
なので、実際に地球に対して何でもしてきました。
「とてつもない失敗の世界史」から、引用します。
とてつもない失敗の世界史
農作がはじまったころ、人類にとってライフスタイルの変化が起こりました。

人口を抑えるか、食糧生産を増やすか?

食糧生産を増やしたんだね。

土地を耕して作物を育て、動物を家畜化する。

地球が変わってきたんだね。
歴史的な大きな湖や川がなくなってしまったこと。
ゴミをどこにでも捨ててしまったこと。
動物の生態系を人間の手で崩してしまったこと。
1930年代にわかった、破壊してきたオゾン層の有用性。
本では人類がしでかしてきた失敗を世界史から見ています。
失敗のつけは、人新世という発想にいたりました。
「これまでとは違う病んだ地球という大前提」になり、「人間が引き起こした地球の変化に対する問題を、もはや従来の発想で解決することができなくなってきた。」という事態がおこりました。
そして、この発想が哲学にどのような影響を与えたのかを見ていきます。
人新世と哲学
人の考え方が相対的であり本質がないという考え方の問題は、何をしても正しいと捉えてしまうことです。
環境破壊は悪い、という思想も視点を変えてみます。
まず、宇宙にとってはちっぽけなことだという物理学的な意見がでます。
ニヒリストにとっては、環境を整えても無意味という意見もでます。
しかし、その意見は人類が生きることの事実を見ていないという批判を受けることになります。
詳しく見ていきます。
「バカの壁」からみる一元論批判
例えば、2003年発行ベストセラー「バカの壁」で、地球温暖化について述べられている個所があります。
科学の盲信を否定する意味で使われている例です。
「温暖化でいえば、事実として言えるのは、近年、地球の平均気温が年々上昇している、ということです。
炭酸ガスの増加云々というのは、あくまでもこの温暖化の原因を説明する一つの推論に過ぎない。」
この個所を、そのまま受け入れたとします。
今までは「炭酸ガスの増加=地球温暖化」という構図が、「炭酸ガスの増加≠地球温暖化」になりました。
すると、地球温暖化の理由は様々だから私が何をしても変わらないんだ、という発想になります。
この科学の盲信を打ち破った後に残る問題は、本で批判していた態度に戻ります。
つまり、「物事はすべて相対的だ」と信じてしまうことです。
科学の盲信から、構築主義の盲信に代わる。
「バカの壁」では受け売りを批判し、見たくない情報を遮断する姿勢、他者を排除する姿勢を批判します。
では、どのような態度ならいいのか?という回答も本に書かれています。
事実は事実として捉える。
科学での推論で炭酸ガスが80%の原因とされていることを事実として捉えます。
私たちは天気予報の降水確率80%はそのようなものだと捉えています。

降水確率80%なら傘も持って行こう。

雨が降ったとして、困らないようにしとけばいいね。
思考の変化を図にするとこうなります。
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地球温暖化≠炭酸ガスの増加
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地球温暖化=炭酸ガスの原因が80%
地球が病んでしまった原因を事実から捉えていくとき、その原因の事実をしっかりと受け止める態度が必要になります。
では、人新世の事実をどのように考えたらいいのか、考察をしていきます。
人新世のきっかけを考える
農作よりもっとわかりやすい事柄を人新世のきっかけにしようとする説があります。
1945年に起こった「トリニティ実験」です。
トリニティ実験とは、アメリカ合衆国で行われた人類最初の核実験です。
事実を事実として捉えます。
核が爆発したら、地球は壊れてしまうことが予想されます。
では、この事実を元にマルクス・ガブリエルの哲学で見ていきます。
事実と視点
マルクス・ガブリエルの新しい実在論では、事実と自分の視点と相手の視点が存在します。
私が事実によせる意味(私の視点)
研究者のAさんの視点
研究者のBさんの視点
大統領のCさんの視点
広島に住むDさんの視点
長崎に住むEさんの視点
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事実と視点から意味の場がうまれます。
意味の場とは、物事が意味をもって現れる場所です。
核があるという事実は、人新世という視点を私たちに与えます。

私はもう核についての知識はばっちり!

事実の知識だよね。でも他の視点もあるんだよ。

そっか、だから話を聞くのが必要なんだね。

盲信しない態度だね。
地球から影響を受けているという完新世から、人が影響を与えるという人新世に移ったということは、私たちの考え方も変えます。
観念論では個々の視点を見てきた。
形而上学では自然の原理を度外視してモノの本質を見てきた。
二つをまぜて捉えなおそうとする哲学が新しい実在論になります。
日常で私たちが実感するのは、森がなくなったことや、ホタルがいなくなったと思うことかもしれません。
その事実から何を思うのかを考えていけば、多くの意味の場が出現します。
人新世ーまとめ
人新世とは、人が地球に影響を与えるようになったことを表す用語です。
完新世⇨人新世という捉え方になります。
人新世は、人間が地球に及ぼす影響が、地球の運命を握るという発想からうまれました。
人新世が与える事実は、哲学にも影響を与えます。
「バカの壁」では、事実をどう捉えるのかを見てきました。
マルクス・ガブリエルの新しい実在論では、事実と視点の両方から意味を考えていく21世紀の哲学を見てきました。

人の話を注意深く聞こうと思えるね。
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