「マンガで学ぶゲノム」を紹介ー遺伝子と哲学の物語

マンガで学ぶゲノム哲学

マンガで学ぶゲノム」は2020年6月に出版されたサイエンスコミックです。

著者チョ・ジンホによって、遺伝子とは何かを追究する形でマンガにされています。

遺伝子を知ると、今の哲学で何が問題にされているかがわかります

遺伝子操作の問題にもふれます。

では、見ていきましょう。

「マンガで学ぶゲノム」から遺伝子を紹介

マンガで学ぶゲノム」では遺伝子とは何かを追究しています

「マンガで学ぶゲノム」の見どころ

顕微鏡が開発される前、人間の精子が小さな人間だという推測。

植物学者メンデルの発見した法則の明かされていなかった実験結果の誤差。

小さいハエを研究して、その誤差にも触れたモーガンの研究。

この物語では、科学がどのように謎をたて、どのように失敗してきたのかをマンガで追っていきます

そして、染色体の発見から、ついにはDNAの発見。

DNAの発見から、また問いと失敗をくりかえします

こんな問いがあったのか、これは失敗だったのか、を知りたい方は本を読むことをおすすめします。
>>「マンガで学ぶゲノム ゲノム・エクスプレス」

ここでは、DNAが発見されて、哲学と関わっていく過程を解説します。

世の中には遺伝子組み換え食品が出回っています。

生物のクローンがつくられる、デザイナーベイビーがつくられるところまで来たと言われています。

生命倫理を議論するには、遺伝子がどのようなものかを知る必要があります

遺伝子とは何か。

ネット画像を検索してみると、多くのDNA画像がでてきます。

遺伝子はDNAなのでしょうか?

遺伝子を辞書でひいてみます。(広辞苑 参照)

遺伝子は「生物の個々の遺伝形質を発現させるもとになるもの」とまずあります。

続けて、詳しい説明が続きます。

「物質としての実体はDNA。(一部のウイルスでは別)
ゲノムの持つ情報の中核をなし、多くのたんぱく質やリボ核酸の一次構造を指令し、遺伝子産物や遺伝子間の相互作用が形質発現を調整する。」

広辞苑では実体としてはDNAなのですが、形質として他の要素があると述べられています。

私たちが一般的に遺伝子を想像するときに思い浮かべるのは形質です。

本人の場合では、親と似ている部分を思い浮かべます。

本では「遺伝子」という言葉は様々で、人によって幅広い解釈が可能な言葉だと述べられていました。

DNA序列のことを言う人や、似ている部分を言う人で解釈が違うからです。

本では遺伝子を「物質ではなく現象と見る」と言っていました。

科学者としてDNAだけを分析しても、それだけではわからない謎があったからです。

物語で具体的に見ていきます。

DNAだけでは再現できない理由

例えば、完璧なDNA序列が解明されたとします。

それが宇宙人に知られたとしましょう。

DNA序列だけで生命のすべてがわかってしまうとしたら、宇宙人に人類がつくられてしまう可能性があります。

けれど、DNA序列の情報だけでは再現できないことがわかりました

DNA序列に作用している他の要素も、生物に必要なことがわかったのです。

もっと詳しく見ていきます。

クローン羊ドリーは、生きている羊の子宮から誕生しました。

他の同じ種の体内環境が必要なのです

体内環境のDNA作用は影響するものが多すぎて予測できていません。

では、絶滅してしまった動物は復活しないのでしょうか?

マンモスがDNA序列によって、再現されようとしています。

それは、マンモスが生きている象にとてもよく似ていたからです。

象によって、DNA以外の情報が得られます

では、恐竜は?

恐竜は今のところ似ている生物がわからないため、DNA序列がわかっても再現できないのです。

周りのたんぱく質や環境がDNAに作用していく情報は、DNAにありません

他にはこのような視点もでてきます。

これが遺伝子はDNAだけではないと言われる理由です。

DNAは受け身なので、何によって変わるのかがわかっていないのです。

僕はやればできる子なんだよ。

DNAがそんな性質をもっているんだね。

やってみたら出来ることが判明するように、DNAは何かに触れると反応を示すことがわかっています。

予測できない未知なことに対応できるようになっているのです

DNAでわかることは何か。

では、生命倫理で言われているデザイナーベイビーはどのようにつくられるのでしょうか。

それにはもう少しDNAを解説します。

DNAの解析が進み、遺伝の形質には固定的なのか、流動的なのかで違いを区分できることがわかりました

固定的な要素=血液型、目の色、指の本数、性別など。
流動的な要素=体重、皮膚の色、筋肉量など。

固定的な要素はDNA序列の中で正常として位置されています。

正常と比較した場合に違った形式で出てくるのが非正常です。

この場合に、疾病としてあらわれてきます。

現在、デザイナーベイビーで期待できるのは、特定の配列を避けるDNA操作だと言われています

頭の良さだったり、かっこよさだったりは、流動的な要素が強くなります。

高校生

痩せやすい遺伝子持ってるって言われたけど、痩せない。

流動的な要素だから、個人差があるんだね。

一般的にこのように話される遺伝子は、特定の序列の差異のことを言っている場合が多いそうです。

痩せる遺伝子はこの配列を持っている人。

指が5本ある人はこの配列、認知症にかかりにくい人はこの配列、というように〇〇遺伝子が次々に発見されています。

気をつけておきたいのは、存在する配列から見つけ出すということです

非正常と定義できるのか。

病気にかかっている人のDNAの配列を、正常な人との区別から発見します。

なので、その本質についてはわかっていません。

この病気が存在するのはどうしてなのか?

そもそも病気というネガティブなものと捉えていいのかがわかりません

同性愛は1993年に病気ではなくなりました。

飢餓の時代に有利だった節約遺伝子が今では肥満の原因になったりします。

天才と分裂病の進化論」では、こんなセリフがあります。

生存に「ハンディとなりうるにもかかわらず」選択されるのではなく、「ハンディであるからこそ」選択されるのである。(ザハヴィ夫妻

同性愛の遺伝子配列では、女性にそれがあると子をたくさん産みやすいことがデータにあります。

他にも、私たちはトラウマを克服しようとしたときに、能力を発揮したり、それについてよく考えたりします。

正常と非正常をどのように判断するのかは、哲学で扱われています。

では、遺伝子について現在で問題にされていることを見ていきましょう。

哲学で遺伝子が問題視される理由

前回紹介したフィヒテの知識学では、「私」と「自然」を区別していない自然科学を批判していました。

区別できなくなるとはどのようなことなのか。

哲学用語事典」(小川仁志 2019)を元に、3つの問題から紹介していきます。

トランス・ヒューマニズム

人間超越主義とも訳される概念で、哲学者ボストロム(1973~)によって唱えられました。

簡単に言うと、「身体能力の飛躍的拡張を肯定する立場」です。

それらを操作した新しい人間を「ポスト・ヒューマン」という概念で捉えます。

今の遺伝子操作の段階では、固定的な要素を操作できます。

特に思い浮かぶのは病気です。

病気をなくすというのは、病気に悩む人類にとっては良いことのような気がします。

繰り返しになりますが、なぜその病気があるのでしょうか?

この問いに答えられなければ、病気をなくしていいのかわかりません。

遺伝子は受動的に効果を発揮します。

未来は未知なことばかりです

このポスト・ヒューマンを進化とみるのが次に紹介する「ホモ・デウス」です。

ホモ・デウス

ホモ・デウス」とは、テクノロジーによってアップグレードされた人間のことをいいます。

歴史家ユヴァル・ノア・ハラリ(1976~)によって唱えられました。

「AI、生命工学、ナノテクノロジーなどの新しいテクノロジーの発展によって、人類はホモ・サピエンスを超えた存在であるホモ・デウスにアップグレードされていくというビジョンである。」

ここで考えさせられるのは、進化とは何か、です。

そして、これらを批判するハイデガーの視点も紹介します。

ゲシュテル

ゲシュテルとは、技術の発展が人間を巻き込んでいくことを言います

マルティン・ハイデガー(1889~1976)によって唱えられました。

いつの間にか私たちはみな、技術の発展に巻き込まれています。

人間は、ひとたびテクノロジーの中に組み込まれたら最後、テクノロジーそのものを総体として否定することはできなくなる。

例えば、地球環境にやさしくなろうと思いつつ、クーラーをつける。

自然を楽しむために車で移動する。

改良によって安くできた食材を求める。

このように、私たちはすでにテクノロジーに組み込まれていることがわかります。

では、どうしたらいいのか。

少しでも問題がおきないよう技術を飼いならす努力をすることは可能だ。」と小川仁志は述べていました。

遺伝子を知り、その先を考えていくことは可能です。

そのために哲学が必要になってきています。

今回は遺伝子と哲学の関係を見てきました。

科学と哲学の関係が気になった方はこちら。
>>科学とはー哲学から科学哲学を具体例を通して考える

遺伝子と哲学の物語-まとめ

マンガで学ぶゲノム」の紹介から、遺伝子とは何かを見てきました。

遺伝子の捉え方はその用語を使う人に左右されます。

本では遺伝子を「物質ではなく現象と見る」と述べていました。

DNAが環境によって影響を受ける例をあげました。

遺伝子を物語として見ていこうとしているのです

哲学と遺伝子がどのような関わりを持つのかを見てきました。

ポストヒューマン」「ホモ・デウス」それらを議論するには、遺伝子についての哲学的視点が必要になります。

それを批判するのは、ハイデガーの「ゲシュテル」という視点です。

生活に組み込まれたテクノロジーは否定できません

遺伝子と哲学の関りは深いね。

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