ポピュリズムの日本語訳は大衆主義です。
ポピュラーと同じく大衆は、一般向き、広く普及しているという意味で使われます。
しかし、本を読むと度々悪い意味で使われています。
例えば、世界でベストセラーの「21世紀の啓蒙㊦」で取り上げられています。
一般がなぜ悪い意味を持つのでしょうか。
大衆主義を例と一緒にみていきます。
大衆主義とは
大衆主義という言葉は広辞苑にのっていません。
なので、ポピュリズムの日本語訳と同意語としてみていきます。
ポピュリズム(大衆主義)とは、一般大衆の考え方や感情、要求を代弁しているという政治上の主張と運動です。(広辞苑 参照)
例えば、

トランプ政権はポピュリズムだ。

一般大衆の感情を取り入れて、アメリカファーストというアメリカを一番に重視する考えだからだね。

日本にカジノを!

カジノをしたいっていう国民の気持ちを代弁しているとすれば、ポピュリズムかな。
日本にはあまりポピュリズムは浸透していないと言われています。
それは、アメリカが良い意味でポピュリズムを使うのに対して、日本では悪い意味だと捉えられることが多いからです。
前回取り上げた、客観的真理と大衆主義とは近いものがあります。
客観的真理は一般的に考えられていて、みんなが納得する普遍的な真理です。
>>主体的真理と客観的真理についてはこちら
それが政治になると、大衆主義です。
大衆を社会学で読み解く
大衆は社会学で、属性や背景を異にする多数の人々から成る未組織の集合的存在です。
つまり、組織に属していないけれど、同じような気持ちや考え方を持つ集まりです。
スペインの哲学者ホセ・オルテガ・イ・ガセット(1883~1955)の大衆の考え方を見ていきます。
オルテガは人間をエリートと大衆の2つに分けて考えました。(社会学用語図鑑 参照)
エリートは少数者で、世の中をよくする努力を惜しまない人です。
自分に多くの義務や責任を持ち、専門的な知識や技術を積みます。
それに対して大衆は、エリートの努力を当然のように扱う人です。
大衆は社会や自分に責任を負いません。
知れ渡っている意見や価値観を一般的な考えとして押し付けます。
⇔
大衆=エリートの努力を当然のように使い、責任を負わない人
このように言われると、自分が大衆に属しているのかが気になります。
オルテガは実際の職業や階級に関係なく、本人の心の持ちようで決まると言いました。
大衆の例を見ていきます。

高級なレストランに来たぞ!
ん?まずいから、お金返して!
コックさんの努力を当然とみなして、自分の意見を押しつけます。

この政策はなってない!

どういう点がダメなの?

えっ、テレビでなってないって言ってた。
知れ渡っている意見を「一般的な考え」として、そこから反論します。
「説明深度の錯覚」といい、説明してと言われると自分が思っているほど世界を理解できていないというバイアスです。

みんなと一緒だと安心する。
自分が他の人と一緒であることに安心感を覚えます。

私は偉い科学者だから、エリート!
政治についての意見も言うよ。

この場合は、大衆だよ!
科学の専門家であっても、専門外のよく知らない知識をもっともらしく言うことは大衆になります。
このような本人の心のもちようが大衆です。
実際にエリートにこのような意見は直接には言わないかもしれません。
しかし、言わなくても心の中でそのような意見を持ってしまいます。
なぜかというと、人は知らないことが恐いからです。
これは、「アイデンティティ保護的認知」や「認知的不協和」といった理論から説明ができます。
人は自分の考えと相容れない情報に合うと、まずは自分の考えに固執する傾向があります。
また、日本では大人になると勉強時間が減り、一日に6分しか勉強をしないというデータが平成28年社会生活基本調査で浮かび上がりました。
知識がないとしたら、無意識のうちに大衆になっている可能性があります。
大衆主義が悪く言われる理由
大衆主義は政治で言われます。
まずは、政治の面での悪く言われる理由をみていきましょう。
政治が偏見を持ってしまう
「21世紀の啓蒙㊦」では政治に関してこのように言われています。
「科学が証明ー政治で計算できなくなる」
「誰もが政治でばかになる」
専門知識を持っていたとしても、自分の中で元から持っていた思想が、正しい政治を行えなくさせると言います。
自分に都合のいい政党に投票してしまう心理は否定できません。
「わたしたちはすでに、政党への肩入れがスポーツファンの応援と同じようなものだと知っている。」と書かれています。
著者スティーブン・ピンカーによれば、この政治的な偏見は、もっと一般的に知れ渡るべきだと語ります。
この偏見を打ち破るためには、科学的に実証されていることや、統計や事実を元に語ればいいと本に書かれていました。
政治とは関係がなくても、大衆心理がおよぼす悲劇を紹介します。
大衆心理が及ぼす影響
大衆の思想ができていく過程を見ていきます。
私たちの常識はどのように変化するのでしょうか。
まずは知らないことを知ることから始まります。
そして、今までの非常識を受け入れる人が増えることでそれが常識になっていきます。
(>>エピステーメーで説明ができます。)
その過程において、迫害されてきた人々がいます。
「ブラックホールってすごいやつ」から引用します。
例えば、地球は回っていると唱えたコペルニクスは、その本の出版を死の直前に発表しました。
彼は司祭であったので、教会が公認する天動説を否定するのがはばかられたのです。
地動説は彼の死後、一時期において閲覧禁止になっています。
そして、コペルニクスの死後から約70年。
地動説を唱えたのがガリレオ・ガリレイです。
ガリレオは太陽を見すぎて目が失明状態になってしまっても、宗教裁判で異端者のレッテルを張られました。
破門が解かれたのは1992年。
350年間、ガリレオは破門されていました。
人はどうしても否定できないことを、ゆっくりと受け入れていきます。
受け入れられたときに、新しい常識になり、一般的な考えになってきました。
その過程において、迫害されてきた人がいます。
大衆が一般的になる理由
ただ大衆が形成されていくのは、人が考えることを嫌うという性質が関係します。
「考えるな!感じろ!」
というような言葉に、同意を示すことができます。
ポップカルチャー(大衆文化)では、テレビ、ベストセラー小説、メジャーなスポーツなど、人々を楽しませます。
共感することで、一体感を持つことができます。
人生の楽しみの多くを生みだします。
使い分けは必要ですね。
政治になると専門家であってもばかになりやすい。
大衆心理で迫害されてきた人々がいる。
この2つから、大衆主義が悪く言われる理由を見てきました。
大衆主義まとめ
ポピュリズム(大衆主義)とは、一般大衆の考え方や感情、要求を代弁しているという政治上の主張と運動です。
大衆を社会学から見てきました。
オルテガはエリートと大衆を分けて、大衆が気をつけなければいけない点を上げます。
彼によれば、エリートと大衆を分けるのは本人の心の持ちようです。
「21世紀の啓蒙㊦」では、政治が持ってしまう偏見を述べました。
スティーブン・ピンカーによれば、政治的な部族主義が最も厄介だという事実をもっと広めるべきだと述べています。
科学の歴史からも、人が持ってしまう非常識に対する偏見を述べました。
これによって迫害を受けてきた人々がいます。
大衆という言葉には、楽しい面が多く含まれます。
人生の楽しみの多くもにないます。
しかし、場合によっては悲劇を生むことがあります。

大衆を知ると、知識欲が刺激されるね!
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